2012年10月10日水曜日

GIDは、ヒトの進化“兆候”の可能性――ヒトの“進化”「Z染色体の出現」を予言する

ヒトの性染色体には、一般的にXとY、♀がX染色体を2本持つ雌雄決定方式に対する名称であり、この場合、♂はXY型となる。以前、こんなことを書くようになったのは3年ほど前からだが、改めて、今、"XY型の♂"、つまり現在の一般的に言われるヒトの♂、「男」が滅びつつある。

性染色体は、所謂生物の遺伝情報を担うDNAとヒストンと呼ばれるタンパク質の一群によってなっている染色体の中で雌雄の性決定に関与する。ヒトに関しては、生命進化の過程で、約3億年に有羊膜類から哺乳類・単孔類(XとY、XXが♀)と鳥類・ヘビ類(ZとW、ZWが♀)、つまり、このときが、後に現れる"ヒト"のXとYによる雌雄決定プロセスの起源となる。それから約3億年、XXとXYによって、2つのXによって相補的に維持されてきたX染色体に対し、Yは親の1本のYをコピーする故の劣化や変異により、所謂遺伝子情報の欠落が起き、ヒトにおけるX染色体の遺伝子情報(約1,000個)に対し、Y染色体は78個まで極端に遺伝子密度が低下している。
哺乳類であるヒトの由来は、胎生、卵の形で個体を産むのではなく、♀の体内で受精卵を孵化させ、胎盤の中で育て、子供の形で生むことにある。よって、哺乳類の♀には“身重”な妊娠期間というのがあり、また卵で生む生物よりも子に対する親の保護が手厚くなる胎生にある傾向とともに、ヒトの社会生物としての進化の要因のひとつとなったわけだ。そして、この“胎盤”形成に父親由来のY染色体が機能する。
例えば、♀の卵子に他の♀の卵子から遺伝情報を持っていっても受精自体は可能かもしれない。しかし、この場合、胎盤が形成されないことで、個体は胎児として成長することはない。
正確に言うと、胎盤形成に必要な遺伝子情報は、♂♀両方にも存在する7番染色体にあるPEG10という遺伝子で、“今のところ”胎盤形成は父親側のPEG10によって引き起こされているようだ。無論、胎盤形成やホルモンの内分泌においてY染色体だけが機能しているわけではないが、不妊や流産は、当然ながらなんらかの原因による胎盤の機能低下と、ヒトの♂の精子の減少は大きな要因だろう。

ヒトの精子数は、WHOの基準では、1回の射精量が2ml以上、精液1mlあたりの精子の数が2000万以上、運動率50%以上、奇形率15%以下を正常としている。実はこの1mlあたりの精子の数、数千~1億といわれていたのは昔の話で、今は2,000万以上あれば正常と言われ、1000万を切れば“不妊”となる。あるデータによると、1940年代では1mlあたり1億個だった精子細胞が、現在、1mlあたり2000万個に満たない若者が15%~20%もいることが判明している。さらに言うまでもなく、オタマジャクシの形の精子の“アタマ”部分は父親の♂のDNAそのものである。父親の持つ性染色体XY、つまり極端に遺伝子密度が低下したヒトのY染色体も運ばれる。不妊や流産の原因の多くが、父親由来の染色体にあることは想像に難くない。

例えば、Y染色体の遺伝情報が、今の78個から77個になったらなにが起きるのか?XY型の♂は今の「男」であり続けることができるのだろうか?Y染色体の無機能化はいくつから?

そもそもヒトの♂の精液1mlあたりの精子の数が1,000万を切ることになったら?その時点で、「不妊」。現在種としての「ヒト」の種は途絶える。
人類の滅亡シナリオは、破局噴火?隕石衝突?ガンマ線バースト?・・・これらは人類滅亡ではなく、地球の生命滅亡の話。地球が滅びるよりも、よっぽどヒトにとって“そこにある危機”――Y染色体劣化。

さて、ヒトは滅びるのだろうか?

私は、実はそう単純には考えていない。“命”というものは、我々が知る以上にもっと、“本能的”に可能性と挑戦を続けるはず、でなければ、この“過酷”な自然環境を生き延びてこれなかったはずだ。上記の“仮説”にはいくつかの欠陥が存在する。自分で書いてて言うのもなんだが、一つは、胎盤形成に必要なPEG10は、性染色体上にではないところに存在している。今のところ、XY型である父親由来の染色体上にあるものが機能しているようだが、もしXX型の変異♂(例えばXX+peg10みたいなXXn、XXYによる変異など、仮にXZ型とする)が出現した場合、XX(♀)とXZ型ヒトとの間で胎盤形成は不可能ではないかもしれない。ヒトは、今のXX型♀とXY型♂、に限られる、とは限らない可能性。最初にヒトの性染色体には、"一般的"にXとY―と書いたのには理由がある。実は、すでにヒトはXX(♀)XY(♂)、だけではない。

以下、XX・XY以外の性染色体の例を挙げる。

  • クラインフェルター症候群(Klinefelter) XY♂のX染色体が過剰、XXY、XXXYなど。発生率は500~1000人に1人、一生気づかれない場合も多い。外性器・内性器は通常の男性形である。主な症状は、女性化乳房(現れない事が多い)又は二次性徴の欠如(成人しても少年や児童的、華奢な体格、声変わりが起きないなど)、長い手足、体毛の発生が少ない又は無い、骨の発育不全や骨粗鬆症、心臓の疾患、運動能力の低下などが現れる場合もある。ほとんどの症例で精子の数が少ない為、自然的生殖では不妊であり、不妊治療に訪れた時点で発見される場合も多い。
  • スーパー女性 XX♀(女)のX染色体過剰、XXX、XXXX、XXXXXなど。
  • スーパー男性 XY♂(男)のY染色体過剰、XYY、XYYYなど。
  • XXYY症候群 ・モザイク染色体 男女ともに発生する、さまざまな形状。発生率は、10~100億人に一人と言われる。XX,XYにXO,XXy,Yなどが混在するケース。
  • 性染色体モノソミー(ターナー症候群)Y染色体モノソミーは存在しない。X染色体モノソミーにも。X染色体にはヒトの生命に欠かせない遺伝子ということでもある。Xモノソミーのため女性型。XXである通常の女性のX染色体の1本が完全または部分的に欠失、X、XO。 新生児期の足の浮腫、著しい低身長、首周りの襞(翼状頸)、先天性心疾患、不妊、第二次性徴の欠如などがある。知的障害はない。10%に大動脈縮窄症を合併する事が知られている。

概ね、発見が何かしらの障害、病気等によるものだからそれらと関連付けられ、“性染色体異常”として扱われるケースが多いが、XやYの性染色体は不活性化するため、トリソミー(3本化)やモノソミー(1本化)したりしても、実際のところ、上記の多くが著しく症状に出ることは少なく、一生発見されない場合のほうが多い。遺伝子情報の解明半ばの現在、したがって、上記の“全て”が“異常”である、という学論は多少無理があると、私は考えている。そもそも、体に何らかの異常や障害が無い場合、通常、染色体の検査をするということは、おそらく一生無いだろう。したがって、例えば斯く言う自分も自身がXY型である、という確証はどこにもない。症状の有無に関わらず、ヒトの性染色体に起きていることは、科学的に、あまりにもサンプルが少ない。これはDNAが、所謂個人情報であることも関係していると思われる。あるいは、「肉体的精神的社会的」に通常と何かが違うとしても、それを“異常”と言えるかどうか。


【「Z染色体の出現」―― ヒトの“進化”を予言する】

生物の進化は、とても不思議だ。適応、と一言ではとてもかたずけられない。サルは7歳で大人になる。だが、成長の遅い「裸のサル」、というその時点での異常がサルを「ヒト」に進化させた。成長が遅い=脳の学習期間が長くなる、が脳の発達に。成長しない=弱い、が社会生物として進化し、文明を作った。その「ヒト」が、今や、Y染色体の著しい遺伝子密度の低下によって、滅びつつある――は、正確な言い方ではない。
正確に言えば、Y染色体を持つXY型の♂のYの無機能化、無効化によって、現代の「男」が役割を終えつつある、というべきだろう。その時間軸は、Y染色体の遺伝子密度が1000から78になるのに3億年かかったことを考えれば、単純に300万年に1コ減少として、遥か先かもしれないし、いや、既にその始まりが起きている可能性もある。いずれにせよ、その後の“ヒト”が、如何なる雌雄の決定プロセスを見つけるのか、見つければ“進化”となり、見つけられなければ、ヒトは滅びる、ということである。

では、それはいつ起きるのか?

その“兆候”は、実はすでにあるのではないか。

私の友人に“杉山文野”という人物がいる。戸籍上は女性、高校まで女子高に通ってきた、が、“彼”は、心は「男」に近い。今でこそ、乳房を取り、男性ホルモンを打っている関係で、見た目もだいぶ男性化してきた、だが、れっきとした「女性」である。その“彼”が、自分が「オナベ」であることをカミングアウトして7年、彼のところに多くのGID(性同一性障害)のコたちが集まってくる。文野君とは公私にわたって付き合いがある関係で、彼らの周りに集まるGIDのコたちとも自然に関わるようになった。
GIDのコたちが、社会の中で如何なる気苦労をしているかはさほどわかっていない自分ではあるが、「男」と「女」に二分化された社会において、GIDのコらのジェンダーフリーへの活動、そしてその中心にいる杉山文野君や彼らへの敬意と理解はしているつもりだ。だが、“彼ら”にもよく話すのだが、「キミたちとボクのアプローチは違うよ、」と。例えばFTMのコが、乳房を取る、子宮を取りたい、という話になれば、私は「反対だよ。」と話す。先に書いたように、ジェンダーフリーは社会進化ではあるが、現代社会に於いてGIDに対する許容はまだまだ浅い。従って、現社会の基準にあわせ、「男」か「女」になろうとする彼らの心はわからなくも無い。しかし、それは、むしろ今の時代の「男」とは?「女」とは?という固定観念への迎合なのではないか?
ジェンダーフリーの思想とは、本来社会的性別(ジェンダー)に対する一般通念にとらわれず、人それぞれの個性に基づいて、自分の生き方を自己決定出来るようにしようという、固定的な性役割の通念からの自由を目指すもの、のはず。「多様性の許容」は社会進化である一方で、同時に、乳房を取り、子宮を切るのは「種」の根絶を意味し、いわば生物的進化への拒絶である。これを、現代の「男」でも「女」でもない「何か」である自分たちのアイデンティティの自殺、と、私は見えて仕方が無い。


GIDは、ヒトの進化の“兆候”の可能性――

先に書いたようにY染色体の劣化、遺伝子密度の低下は何も不妊流産にとどまらず、「男」そのものにも影響を与えている気がする。それが、言ってみれば男性の女性化であり、華奢な体つきへの変化、あるいはMTF化。一方で、Y染色体が滅びる前に、ヒトの染色体が何かを探している、例えばXXとXXによる雌雄の決定、或いは、Xの変異によって、例えばXnの様な“Z染色体”が生まれようとしている過程において起こりうること、XZ型♂の前段階として、それが、女性の男性化、いわば外見としてはFTMやMTFに“見える”可能性がある。杉山文野君やその周りにいる「オナベ」くんたちを見ていて、日常的に接し、なぜか、少なくとも自分には彼らが“異常”には見えなかった。ホルモン注射をする以前の彼らは、所謂「女性」より強く、「男性」よりも美しい。
 
もう一つ、それは、ドーピング前の彼らが「オトナにならない子供」であるという印象。このことに対する反論はありうるとは思うが、GIDの、おそらく過半にありうる、性成長が緩やか、いわば一般的に見て成長速度が遅いことと、一方で未熟な性の状態に対して与える社会からの外的影響との融合によって、性志向が見た目“同性愛”的に現れた結果のGIDである可能性がある。先天的に性成長が緩いことに起因して、後天的要因(脳への影響)が加えられてGIDになる、というもの。いわば、性同一性障害、ではなく、あくまで性成長が遅い、或いは未熟であるという状態であるのではないか。
一見この性成長が遅い、は生物学的に劣勢なイメージを与えそうではあるが、成長の遅い裸のサルがヒトに進化したことと同じく、性成長の遅さが引き起こす、或いは必要な状況、とは何か?例えば、XXとXXによる雌雄決定が可能になる未来への前段階として、ヒトの性決定そのものが遅れるということが起こっている可能性はないか、と。

これらの“印象”から得た「直感」が、この答えだった。ヒトは、今、ミトコンドリアイブの時代以来の大進化過程、進化パンデミック直前にいるのではないか。そして、すでにXXとXYによる雌雄決定のプロセスを超えていたり、超えつつある・・・少なくとも彼らはその兆候、GID(性同一性障害)として“見えている”のではないか。

生命は間違いなく、女(♀)が産み出すものである。男(♂)も女(♀)が、生命の維持と存続のために創り出した「マテリアル」に過ぎない。言い換えれば、「ヒト」とは女(♀)のことのみを指し、男(♂)は役割を担う道具であって「ヒト」ではない。

その、これまで使ってきた「マテリアル」が、さすがに3億年たって消耗が激しく、このままではまずい・・・ということで、XXはYを諦め、新たなる可能性"Z"を模索している。これまで“異常”と片付けられてきた様々な性染色体のトリソミーも含め、X染色体は“何か”を創り出そうとしてやしないか?ましてや、昨今発見されたPEG10遺伝子は、Xの中で眠っている。胎盤を形成するためにYが必須、ということではどうもないらしいことまでわかって来た。或いは、書いたように、身体に何らかの異常や障害が無い場合、通常、染色体の検査をするということは無い。自分がXY型である、とも言い切れないし、DNAのサンプルはまだまだ少ない。発見されていないだけで、すでに“Z染色体”が現れている可能性もある。


京都大学の山中伸弥教授がノーベル医学・生理学賞の受賞が決まり、にわかにiPS細胞への関心が高まっている。iPS(人工多能性幹)細胞は、理論上、体を構成するすべての組織や臓器に分化誘導可能であるばかりか、卵子や精子も創り出し、それを受精させ、「ヒト」として誕生させることも可能になる。いみじくも、iPS細胞は、女性の染色体に、精子や胎盤を自ら作りうる設計図が書き込まれていることを明らかにもした。そしてその先は・・・このことに対する倫理的な問題を問うのは別の人たちの仕事だと思うのでここには書かないが、iPS細胞に関わる研究の進歩によって、今後さらに、様々な、遺伝子情報や個別の役割、そして“異常”とは何か、を見つけていくに違いない。
改めて、“Z染色体の出現”の予言をここに書いたのは、そこに理由がある。iPS細胞の研究もいってみれば社会進化。だが、社会進化は、時に生物的進化と相反することもある。

生物の「進化」の過程に現れる様々な染色体の変異は、それが何かしらの“障害”として現れることもあるだろうが、その“異常”は現社会における価値基準上のものであって、ヒトの一生を遥かに超えた時間軸の中では、場合によっては「進化への兆候」であるかもしれない。我々程度の知能と「目」では、“異常”と“進化への兆し”の区別はつかない可能性がある。そう、「兆し」を「病気」「障害」と捉えてしまう致命的な間違いを犯すかもしれない。遺伝子研究が、一つには、そういう致命的な間違いを犯さないように、という意味と、もう一つは、もし"Z"を見つけてしまったら、それこそ、ヒトの社会及び種としての在り方を含め、コペルニクス的な大変革となるのではないか?ということだ。
 
宇宙が無から”揺らぎ”によって生まれたように、この世界の摂理として、片側に大きな揺らぎがあれば、例え見えていなくても、必ず相反する反対側の揺らぎが存在する。そうやって世界は拮抗し、均衡が保たれている。今言う「片側の揺らぎ」が、いわばiPS細胞という社会進化の大きな揺らぎであるとするなら、もう片側にあるのが、自然の生物的進化の揺らぎ、"Z"の出現。悠久の時間軸における、限りなき先の未来には起こりうると思いがちかもしれないが、約70年で1/5まで減少したヒトの精子密度低下速度と、或いは同じ程度の急加速で見える世界、見えない世界で同時に“何か”が起きている予感。
 
 
"Z"を発見しよう。

"Z"の発見によって、GIDはGIDでなくなる。彼らは「障害者」ではない。進化への先駆け、言ってみれば「ニュータイプ」。そして、マイノリティは我々(たぶん)XY型の♂、否が応でも、それこそ"Z"の出現有無に関わらず、XY型の♂の未来は、そう永くはない。


記:2012.10.10 Kouichi Teratani